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2010年3月2日火曜日

Tanko狂想曲


去った2月20日に東京で行われた第一回単孔式内視鏡手術研究会は本当に凄かった・・・。あの異様ともいえる熱気はなんだろう。500人以上の参加、そして150もの演題数。新しい技術の可能性に多くの人が夢を抱いているような感じがした。胆嚢摘出術や虫垂切除術はおろか大腸癌や胃癌の手術、そして高度肥満に対する減量手術でさえ究極の腹腔鏡手術で高いQualityをもって行っていたのはショックだった。ある発表では拍手が鳴り響いたのもちょっとこのような会ではあまり無かったことなので正直驚いた。2008年頃から話題になり2009年に新型インフルエンザと同じくらいのスピードで一気に広がっていったという感じだ。2010年にはささらに普及していくという予感がする。たしかに腹部(胸部)に複数箇所の小さな切開をおくのではなく通常『臍』というもともと『きずああと』を切るのだから建前上は新しいきずあとは発生しない。”きずのない手術”の誕生ということになる。皮膚に目立つきずがないということのインパクトがどれほどのものかは分からないが、やはり手術を受ける患者さんにとっては朗報ということになるのだろう。
ただ、新しい革命的なオペということは決してないと思っている。ポートの位置、数、対象臓器へのアクセスの方向が違っているだけで手術の方法や目的、そして”美容的な”効果以外はほとんど同じだと思っている。ある人は本当に整容性が優れているかは分からないと言っていたがその意見にはうなずける。確かにsingleに拘らずに2mmの刺し傷を1カ所加えるだけで手術の難易度は一気に下がり安全生やオペの完成度は高くなるだろう。この1年日本中で吹き荒れた新技術?Tankoでオペが出来ることが分かった。問題はその後だと思う。僕らは何を得て、そして何を失うのだろうか。腹腔鏡手術だって最初はキズが小さい、痛みが少ないという側面から始められて普及した。でも今では・・あくまでも僕の個人的な考えだけど・・・開腹手術より遥かに大きなメリットがある。アクセスルートの大きさではなくよく見えることによる手術の精度の向上、記録できることによる技術の共有、後進の教育、コンセンサスの形成(リンパ節郭清の範囲など)、老眼になっても手術ができる(汗)、手術が下手くそかどうかすぐにばれる(大汗)などその新しい技術がもたらした功績は本当に大きい。それらは全て患者さんのためになることばかりだ。Tankoとはいったい何なのか、生まれてきたこの子をどう育てていくべきなのか。40代も半ばを過ぎた外科医が青春時代に聞いていたすり切れたカセットテープの音楽を久しぶりに聴いて20年前の興奮の追体験をしてあの頃の自分に返りたいだけなのか・・・?。僕たち内視鏡外科医は技術のchallengingに興奮しているだけでなくいったい何を目指しているのかを考えていく必要があると思う。だって、腹腔内でやっていることはこれまでと同じ目的だしこれまで不可能だった疾患をTankoによって治せるようになったわけではないのだから・・・。

2010年1月11日月曜日

腹腔鏡下幽門側胃切除後+ルーワイ再建(LDG-RY)


ここ数年は胃がんのオペをすることが多くなった。今年3番目のオペもやはり早期胃癌に対する腹腔鏡手術を行った。今日で術後3日目だけど特に問題なく経過している。幽門側胃切除術を行う場合は再建方法がいろいろあるが僕の方法は歴史的には①残胃後壁と十二指腸吻合をCDH29(またはSDH29)で行ういわゆるLADG,つまり5cmの小開腹をおいていた時代、②残胃と十二指腸を小開腹を置かないで全ての手術操作を腹腔鏡下に行う方法。Billroth I型の再建ではリニアステイプラー(ETS45)を用いるいわゆるデルタ吻合、そして③残胃と小腸を吻合する残胃ルーワイ再建(Roux en Y reconstruction)の3種類を行ってきた。ヘミダブルもやってみていい方法だと思ったがすでに小開腹は置かないのは標準になったためその施行数は少ない。今では②と③を使い分けることが多い。今回はRouxY法で再建したわけだが理由残胃が小さいということと滑脱型食道ヘルニアがあるため今後の人生のQOLを考えてRYにした。RY法の欠点はオペ時間が長くなると言うことだ。この再建法の懸念材料としてRoux Y stasisという言葉をよく耳にするが、個人的には幸いこれまで1例も経験していない。また、利点としては縫合不全が少ないと言われているが、BillrothI法でもRY法でも1例の縫合不全もこれまた奇跡的にこの18年で経験していないので個人的にはこれもコメントできない。ただ、胆汁の逆流による残胃の炎症はないのでBillrothI法に比較してこちらが有利ではないかと思っている。再建は結腸前ルートの順蠕動。デルタ吻合、病的肥満のルーワイガストリックバイパスを始めた頃よりこのルーワイ再建も鏡視下に行っている。空腸空腸吻合、胃空腸吻合、腸管膜の閉鎖も鏡視下に。最初は修行のつもりでやっていたのだけれど、小開腹よりも手術がやりやすいことに気づいて、もう戻れない。胃空腸吻合は腹腔鏡下に空腸空腸吻合は”どうせ切除した臓器を取り出すのだから”という理由で直視下に縫合することもあるかと思うがこの部分こそ”明日のために”腹腔鏡下に縫合したほうがいいと思っている。また、腸管膜の閉鎖にしても5cm弱の小開腹からだと出来るけど少し窮屈に感じている。今のところこの方法に慣れているし問題はないけれどベストとは思っていない。これからも柔軟に多くの知識や技術を吸収していけるようにしていきたい。

2010年1月10日日曜日

2010年最初のオペは残胃がんの腹腔鏡手術でした

新年しょっぱなのオペは残胃に発生した早期癌に対する残胃全摘。初回のオペは3年前、やはり腹腔鏡下幽門側胃切除術をして、再建はデルタ吻合を用いた。2回目のオペなので癒着は当然予想し得た。ただし、これまでの経験から完全腹腔鏡下で胃切除をすると癒着は非常に少ない。とくに腹壁の癒着は皆無だ。これまで腹腔鏡下幽門側胃切除後の残胃の癌はこれで3例目だ。1例目は上腹部に5cm程度の小開腹をおいて胃切除を行う腹腔鏡補助下幽門側胃切除後(LADG)だった。やはり、上腹部正中の腹壁と横行結腸、残胃はかなり癒着していた。残胃小弯と肝左葉もベッタリと癒着。まあ、なんとか癒着を処理してまた上腹部に小開腹をおいて残胃を切除し、直視下にルーワイ再建をおいた。2例目は完全腹腔鏡下に幽門側胃切除を行った後、ルーワイ再建を行った症例。残胃全摘のために腹腔鏡手術を行った。驚いたことに腹腔内は残胃小弯と肝左葉間の癒着を覗いて全くくっついていなかった。結腸前のルートで挙上したRoux脚の間膜と結腸も全く癒着なしであっけにとられた。残胃切除後あとは食道空腸吻合を完全腹腔鏡下に行った。2回とも手術操作のための小開腹は置かずにオペは行えた。そして今回の3例目、前回がデルタだったので十二指腸と残胃の間の癒着がどの程度かがとても気になっていたが、なんと十二指腸後壁と膵の全面の癒着があまりなく容易に十二指腸は切離できた。やはり今回も難渋したのは肝と残胃小弯・・・。残胃小弯と肝は腹腔鏡下手術においてもとても癒着しやすいということが判明した。今回は腹部食道右壁側の癒着がつよく、食道の伸びも悪かったので完全腹腔鏡下に食道空腸吻合を行うことは容易でないと判断して心窩部に7cm程度の小開腹下に再建した。リニアーステイプラーでは食道剥離の距離を大きく取る必要があるためサーキュラーステイプラーを用いた。やはり、小開腹は視野が悪くとてもやりにく大変だった。腹腔鏡下にストレスなく安心して行える食道空腸吻合を早く開発しなければ・・と思う。リニアーステイプラーを用いた『デルタ吻合』、『オーバーラップ法』サーキュラーステイプラーを用いた吻合にもアンビルを入れるためにいろいろな方法が考案されているもののGold Standardはまだない。成熟するまでにはまだ時間がかかりそうだ。

2010年1月1日金曜日

2010年が始まりました

2010年宇宙旅って映画があったと思う・・
ずいぶん先のことだと思っていたけどすでにそこに来ている。
さて、今年もいろいろ忙しくなりそうな予感がする。

1月は殆ど毎週腹腔鏡下胃切除術の予定が入っている。1月16日には福岡で九州有志の会手術手技勉強会、18日は東京でスリーブ・バイパスの見学を予定、19日から台湾に飛んで20日には高雄でE-Da hospitalのinternational baritric centerがアジア太平洋地域で初めて減量手術の優れた施設であるというCOE(Centers of Exellence)を米国の機関から認定されたということでその認定記念のシンポジウムに笠間先生とともに参加を予定している。23日には今後のTanko手術のブレイクは確実なため、福島で単孔式腹腔鏡手術(SSL)セミナーを受講して学んでくる予定。ラボでの実戦もあるので手技を体にしみ込ませてくるようにしよう。そして29日〜30日までは同じ福島で腹腔鏡下胃切除術のセミナーの講師を務めさせていただく予定となっている。いいプレゼンが出来るように準備を早めにしなければ。